「ストレス軽減」と「睡眠の質向上」を謳う某社の乳酸菌飲料が人気だと聞きます。某社のホームページには対象人数は少ないですが、この乳酸菌飲料を8週間ほど毎日、飲み続けることで「ストレス軽減」と「睡眠の質向上」に効果があったというデータが載っています。
不安や緊張を感じると、おなかが痛くなりトイレに行きたくなる。また、新年度に職場や学校で環境が変わった時や旅行先で便秘を経験されたことのある方もいるのではないでしょうか。これらは脳が自律神経を介して、腸にストレスの刺激を伝えるからだと言われています。このように、ストレスが腸の機能に影響を及ぼすことは実感できますが、近年、脳から腸への影響だけでなく、腸の状態の変化が脳に伝わり、気分や感情という心の状態にも影響を及ぼすことが分かってきました。マウスを使った実験で腸内が無菌状態のマウスは腸内細菌を持つ通常マウスに比べてストレスに対して過敏であること、脳の神経系を成長させるための因子が少ないことなどが分かりました。また、無菌マウスに通常の腸内細菌を移植すると多動や不安行動が正常化するという報告もされています。つまり、腸内細菌はストレスの感じ方や脳の神経系の発達・成長、そして行動に影響をもたらす可能性が示されています。
腸内細菌の脳への影響のメカニズムについてさまざまな研究が進められていますが、腸内細菌のバランスを改善することで心身の不調の改善に役立てようという研究からこの製品は開発されたものと思います。ただ、飲料から摂った乳酸菌は腸内にある程度の期間は存在しても、住み着くことはないとされています。そのため、毎日続けて摂取し、腸に補充することが勧められます。効果を自覚される場合には継続することも良いと思います。
腸内細菌を良い状態に維持するために乳製品等の摂取だけでなく、腸内細菌の活躍を支える栄養素(オリゴ糖や食物繊維など)が含まれるバランスのよい食事を続けることも重要です。
医療法人社団 清水橋クリニック 労働衛生コンサルタント 医師 古川 泰
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